#003 FutureSound

iPhone,そして「いつか音楽と呼ばれるもの」#003 FutureSoundについて

これまで,RjDj,BloomとApp Storeミュージックカテゴリにおける目玉とも言うべきアプリケーションを題材に委譲を中心に展開してきた.本来なら,今回から情報探索にテーマを移す予定であったが,ここにきて,はからずもRjDj,Bloomに続くアプリケーションが登場したため,急遽取り上げてみよう.
まだリサーチが十分でないため,嘘を書く可能性が高い.しかし,早めに紹介したく筆を取った.ご意見・ご指摘をいただければ幸いである.

アプリケーションの機能

今回取り上げるFutureSound(App Storeへのリンク)はRjDjに近いコンセプトを持ったアプリケーションである.アプリケーションを起動すると,「Sound」(RjDjで言うところのScene)のリストが現れる.現在,10 Soundが収録されている.それらはRjDjと同じく,マイク入力に反応して変化するのだが,その反応具合とそこで指向されているコンセプトが少々異なる.いくつか解説してみよう.

図1. Soundのリスト画面 図2. Play画面

Adaptive Maskerはマイク入力をノイジーに加工し,リヴァーブをかけて再生するSoundである.加工というよりは,周波数解析によって対応したノイズを生成しているという雰囲気である.

Rainは,ずばり雨が降り始めるSoundで,マイク入力に対して雨の降る強さが変わる.
騒音の多い場所では大雨が降るだろう(It’s gonna heavy rain…).

MarimbasはHomage to Steve Reichとあるように,ミニマルなマリンバのループを基本としており,マイク入力の音量が大きくなるにつれて,同時に再生されるループが複数になり,それがポリリズムを生み出すSoundである.

Whisperは,マイク入力の音量に対応してバックで流れるのパッドの音量が上がり,それが生みだす圧迫感の中にウィスパーが流れる,トリッピーで若干ホラーなSoundとなっている.

これらSoundのコンポーザーはScanner,David Toopという大御所とPaul Weir(一瞬ザ・ジャムのギタリストを思い出したけど別人.主にGame Musicシーンで活躍している人らしい),といったメンバーである.

マイク入力に対する反応はSensitivityとMin levelでコントロール可能で,Sensitivityを上げればよりマイク入力に反応し,Min Levelがその反応する最低入力値となる.

さて,実際に聞いてみれば分かるのだが,FutureSoundはRjDjに比べて変化は少ない.Soundにもよるのだが,音量の変化が目立ち,構造的な変化は見られない.実はRjDjとの違いはここにあり,それはFutureSoundのコンセプトによると考えられる.

FutureSoundのコンセプト

FutureSoundはAdaptive Acoustic Architecure(Aが3個なのでa3と略すそうだ)という技術が使われている.実はこのAdaptive(適応)がそのコンセプトを明確に表している.

a3 is a new sound technology.
a3 generates sound composed in real-time,adapting intelligently to its environment.

とあるように,環境に反応というよりは,”適応・順応”する音楽が指向されているのだ.

a3 adds behaviour into music; it creates music that listens and responds to the listener’s surrounding.

を見るに,音楽を生成するよりはむしろ,振る舞いを”付加する”ものであり,その結果としてリスナーの周辺の音を(システムが)聴き,応じるということである.

RjDj がReactiveを使うのに対してAdaptiveとRespondという言葉が使われていることに注目する.RjDjの場合,環境音に反応して,曲が生成,変化していくのだが,Future Soundの場合は音量の変化などに留まっており,”既存の曲が”マイク入力に応じる,という感じが強い.

もっと言えば,それぞれSceneとSoundにもよるのだが,RjDjはアルゴリズムの比重が高く,FutureSoundの場合,(微妙な表現ではあるが)楽曲に対する比重が強い.FutureSoundのSoundはマイク入力が無くとも,(一般的な意味での)楽曲として成立する.これはアプリケーションの容量からも明らかである.RjDj(Album)が4.4MBなのに対して,FutureSoundは107.1MBである.
アプリケーションの内部を覗くと,FutureSoundは多数のサウンドファイルが収録されている[図 3].
サウンドファイルの多さから,その機能を決定することはできないが,そもそもの指向性の違いを探る材料ではあるだろう.

fs31
図3. 収録されているサウンドファイルのリスト(一部)

さて,これらサウンドファイルが,いかにしてSoundになるのか.どのようにしてコンポジション(配置)が行われるのか.FutureSoundは Soundのために,コンポジション用の言語,a3言語(と単純化のためにひとまず呼んでおく)を独自に開発しているようだ.

a3言語とサウンドファイルによるコンポジション

FutureSound のa3というテクノロジーは,音響処理言語として実装されていると思われる.その実装や,開発環境(コンパイラ・Runtime)は公開されていないため,全貌を探ることはできないが, FutureSoundの内部にa3言語のコードが収録されている[図4][図5].

図4.   .a3ファイルのリスト 図5.   01_Adaptive Masker.a3の一部

ざっと見るに,サウンドファイルをどのようなレイアウトでどのように鳴らすか,という記述が大半を占めているように見受けられる(筆者は恥ずかしながらC系言語とP言語いくつかぐらいしか言語を知らない.何かの方言ではないか?などあれば教えてほしい).

サウンドファイルの配列情報が多く,音量を表すvolume,levels,開始条件と思われるtrigger,outputや,音の減衰,エンベローブで使われるattack time,decay time等の記述が目立つのに対し,波形を生成するような数値計算が見当たらない.このことから,おそらくはサウンドファイルを中心としたコンポジション専用の言語ではないかと考えられる.いや言語というよりはまるで設定ファイルのようだ.

このように,Soundの実体は,サウンドファイルと.a3という拡張子を持つテキストファイルである.当然ではあるが,a3言語はSoundの制作に非常に特化したものであることが予想される.また,記述のパターンが比較的少なく,それぞれがかなり似通ったシンタックスを持つため,これは直接記述したのではなく,別ソフトウェアで(時にGUIを用いて)制作したコンポジションをテキストデータに書き出したものではないか,という予測もできる.FutureSoundのSoundを聞くに,特にテキストベースでの記述が必要な程の複雑さが感じられないからだ.以上のように,a3言語と勝手に呼んできたが,これがいわゆる言語であるのかは不明である.

FutureSoundヴァージョンの登場

さて,これまでの解説で既にお気づきかと思うが,FutureSoundはRjDjに比べて委譲の度合いが低い.マイク入力に対応して楽曲が変化する,というよりは,既に楽曲があって,それが変化”も”する,という感じが強いからだ.よって,ヴァリエーションは比較的少ない.しかしそれは,RjDjには無い,もしくは指向していない,別の可能性を提示したと考える.

FutureSoundは曲を適合させるというコンセプトを提示した.これは「FutureSoundアレンジ」なるものの登場を予感させる.CDなどの(固定)メディアでのリリースに加え,リミックスや何々ヴァージョンと同じように,環境音に反応できるFutureSoundヴァージョンがリリースされる,といった具合だ.CDで出た後に(もしくは先か同時に), FutureSoundヴァージョンがiPhoneでリリースされる,といったことが近いうちに行われる可能性は十分あるだろう.特に(比較的短い)サウンドファイル(のループ)とそのコンポジションによる音楽は,FutureSoundへ展開しやすいだろう.AメロBメロサビといった構造を持つ歌もののように,大きな時間軸と展開を持つものに比べて,組み替え可能性が高いからである.また,歌ものであったとしても,テクノリミックスなどと言われるものの場合,短いループに分割され,リミックスが行われる場合があるように,FutureSoundヴァージョンのリリースは十分可能だろう.

a3言語の解説でデータを書き出したものではないか?と書いたのは,実はこのことに関係している.例えば,主にループ構造を持つサウンドファイルの組み合わせから楽曲を制作するAbleton Live!のようなソフトウェアがa3言語に対応し,Adaptive Pointとも言うべき反応情報を埋め込むことができれば,Soundの制作は容易になるだろう.例えば,このセクションのこのループは音量変化に合わせてオン・オフ(再生・停止)が決定される,等のタグが書き込めれば情報としては十分であろう.

以上の考察のように,対応は比較的容易なように思われる.FutureSoundアレンジが実際に登場するかどうか,またそれが面白いのかどうかは相当微妙なところではあるが,メジャーどころだと,ビョークなんかがやるかもしれない.こういうのは好きそうである.

iPhoneが遭遇するコンテキストとそれを活かすシステム

FutureSound が特別新しいかと言われると,ノーであるし,RjDj,Bloomを経過した今となっては,その衝撃度はかなり低い.筆者の印象でしかないが,少々変化する普通の曲といった感じである.しかし,委譲度合が低いということは,ユーザーへ開くべき機能が少なくて済むし,対応のための複雑なアルゴリズムが必要ない.それは既存の曲の形態をあまり崩さなくてよいことを意味する.その結果,ユーザー環境(というよりはユーザー環境の騒音レベル)に対応するヴァージョンが比較的インスタントに用意できることとなる.
そして,大抵のものがそうであるように,インスタントに用意できるものはあまり面白くない.しかし,Adaptiveというコンセプトとその実装の提示は高く評価されてよいと思うし,これからの展開が楽しみである.

RjDj とFutureSoundはそのコンセプトの持つニアンスは異なるが,大きな方向性はユーザー環境によって「変化する音楽」である.反応や適応をコンセプトに持つもの,これらがiPhoneをプラットフォームとして登場したのは偶然ではない.iPhoneと今までのコンピューターの違いは,様々なコンテキストと遭遇することにあるからだ.そこには同様に様々な可能性があるのだが,それを活かすには,その可能性をとらえ対応できるシステムが必要となる.それはBloomのような,アルゴリズムを持つ複雑なシステムであったり,RjDjとPure Dataのような,複雑なシステムを用意できるプログラミング環境であったり,逆に,発想の転換とそれを活かした単純なシステムであったりする.
iPhoneの登場によってプログラマー(音楽家,アーティスト?)は,この未踏の領域へのチャレンジを突きつけられているのだ.

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